記事2026-08-23
退去費用の明細にある「負担割合」は、自分で計算して検算できる — 国交省ガイドラインの直線を式に戻す
退去費用の精算明細にある「負担割合(%)」は、国土交通省ガイドラインが図で示している直線から自分で計算できます。耐用年数と入居年数の関係、出発点が100%とは限らないこと、年数で減らない部位を、本文と図の記載だけで整理しました。
この記事は 退去費用チェッカー(退去時の精算を、支払う前に確認)を作る過程で、 一次資料を読んだ記録です。事業者への送客はしていません。
退去費用の精算明細に「負担割合 50%」と書かれていた。50%という数字がどこから出てきたのかは書いていない。
国土交通省住宅局「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)平成23年8月」の本文PDF(173ページある)を通しで読んだところ、この割合の出し方は本文に書かれていた。しかも、図で示されているだけで式は書かれていない。式にすれば手元で検算できるので、その作業をした記録がこの記事になる。
先に断っておくと、工事の単価そのものについては、出典として示せる公的な相場統計を見つけられなかった(クロス張替えの㎡単価、鍵交換費用など。2026年8月時点の調査範囲)。だからこの記事は単価の高い・安いを一切書かない。書けるのは、単価と数量が決まったあとの、割合の計算までになる。
1. なぜ全額ではないのか(ガイドラインの理屈)
まず、割合という考え方がなぜ出てくるのか。ガイドラインの説明はこう。
なぜなら、Bの場合であっても、経年変化・通常損耗は必ず前提になっており、経年変化・通常損耗の分は、賃借人は賃料として支払ってきているところで、賃借人が明け渡し時に負担すべき費用にならないはずである。したがって、このような分まで賃借人が明け渡しに際して負担しなければならないとすると、経年変化・通常損耗の分が賃貸借契約期間中と明け渡し時とで二重に評価されることになるため、賃貸人と賃借人間の費用負担の配分について合理性を欠くことになる。
(「B」はガイドラインの事例区分で、賃借人の故意・過失等による損耗のこと)
通常損耗の分は家賃で払っている、だから退去時にもう一度払うのは二重になる、という筋になっている。続けて、公平の話も置かれている。
また、実質的にも、賃借人が経過年数1年で毀損させた場合と経過年数10年で毀損させた場合を比較すると、後者の場合は前者の場合よりも大きな経年変化・通常損耗があるはずであり、この場合に修繕費の負担が同じであるというのでは賃借人相互の公平をも欠くことになる。
そこで、賃借人の負担については、建物や設備等の経過年数を考慮し、年数が多いほど負担割合を減少させることとするのが適当である。
2. 直線の傾きは「残存価値1円」から決まっている
では、どういう傾きで減らすのか。ここが税制の話とつながっている。
経過年数による減価割合については、従前より「法人税法」(中略)における減価償却資産の考え方を採用するとともに、「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」(昭和40年3月31日大蔵省令第15号) における経過年数による減価割合を参考にして、償却年数経過後の残存価値は10%となるようにして賃借人の負担を決定してきた。しかしながら、平成19年の税制改正によって残存価値が廃止され、耐用年数経過時に残存簿価1円まで償却できるようになったことを踏まえ、例えば、カーペットの場合、償却年数は、6年で残存価値1円となるような直線(または曲線)を描いて経過年数により賃借人の負担を決定する。よって、年数が経つほど賃借人の負担割合は減少することとなる(図3)。
「6年で残存価値1円」という有名な言い回しは、平成19年の税制改正に由来している、と本文自身が書いている。それ以前は残存価値10%だった。
図3の見出しは「設備等の経過年数と賃借人負担割合(耐用年数6年及び8年・定額法の場合)」。縦軸が賃借人負担割合(%)、横軸が経過年数(年)で、100%から始まる直線が引かれている。
ガイドラインに書かれているのはここまでで、式は載っていない。 図の直線を式に戻すと、こうなる。
賃借人負担割合(%) = (耐用年数 − 入居年数) ÷ 耐用年数 × 100
これは筆者が図3・図4の直線(定額法)を式に書き直したもので、ガイドラインにこの式が書いてあるわけではない。 曲線を描く場合もあると本文が明記しているので、定額法(直線)を採る場合の読み方になる。
耐用年数6年の部位(ガイドラインが6年と書いているのは、クロス・畳床・カーペット・クッションフロア)で並べると、こうなる。
| 入居年数 | 賃借人負担割合 |
|---|---|
| 1年 | 約83.3% |
| 2年 | 約66.7% |
| 3年 | 50% |
| 4年 | 約33.3% |
| 5年 | 約16.7% |
| 6年以降 | 残存価値1円 |
明細の金額のほうにどう掛かるかは、別表4の記入要領に書いてある。
その上で、「賃貸人の負担」「賃借人の負担」について、契約時の原状回復の条件(別表3)を基に、賃借人の負担単位、耐用年数から算出した賃借人負担割合を考慮して算出した「割合(%)」を乗じた「金額」を記入する。
つまり単価 × 量 = 金額を出したうえで、その金額に割合を掛けるという順番になる。式の使い方を示すために仮の数字を置くと、こうなる(実在の請求例ではなく、算術の例として置いた数字)。
- クロスの張替え費用が 40,000円と算出されている
- 対象はクロス(ガイドラインが耐用年数6年としている部位)
- 入居年数は3年
このとき、(6 − 3)÷ 6 × 100 = 50%。40,000円 × 50% = 20,000円が賃借人の負担になる、というのがガイドラインの想定する形になる。
明細に「負担割合」の欄があって数字が入っているなら、この2つの掛け算は手元で検算できる。 欄が無い、あるいは「一式」しか書かれていないなら、確認できるのはまずそこになる。
3. 出発点は100%とは限らない — ここがいちばん動く
式の分子には入居年数が入っている。ところが、そもそも100%から始まるとは限らない。ガイドラインは、経過年数を入居年数で代替した理由と、その代償を続けて書いている。
経過年数の考え方を導入した場合、新築物件の賃貸借契約ではない場合には、実務上の問題が生じる。すなわち、設備等によって補修・交換の実施時期はまちまちであり、それらの履歴を賃貸人や管理業者等が完全に把握しているケースは少ないこと、入居時に経過年数を示されても賃借人としては確認できないことである。
他方、賃借人がその物件に何年住んだのかという入居年数は、契約当事者にとっても管理業者等にとっても明確でわかりやすい。
そこで本ガイドラインでは、経過年数のグラフを、入居年数で代替する方式を採用することとした。この場合、入居時点の設備等の状況は、必ずしも価値100%のものばかりではないので、その状況に合わせて経過年数のグラフを下方にシフトさせて使用することとする(図4)。
そして、出発点の決め方。
入居時点の状態でグラフの出発点をどこにするかは、契約当事者が確認のうえ、予め協議して決定することが適当である。例えば、入居直前に設備等の交換を行った場合には、グラフは価値100%が出発点となるが、そうでない場合には、当該賃貸住宅の建築後経過年数や個々の損耗等を勘案して1円を下限に適宜グラフを決定することとなる。
「予め」=入居のときに決めておくもの、と書かれている。退去のときに初めて議論するものとしては書かれていない。ここを入居時に決めていない物件が多いのではないかと思うが、これは筆者の推測で、統計を持っているわけではない。
本文と図の注記で、シフトの向きの書き方が違う
読んでいて引っかかったところをそのまま書いておく。本文は「グラフを下方にシフトさせて使用する」と書いているのに、図4に付いている注記はこうなっている。
※入居時の設備等の状態により、左方にシフトさせる。新築や交換、張替えの直後であれば、始点は(入居年数、割合)=(0 年、100%)となる。
下方と左方で、書き方が違う。 直線の場合、始点の割合を下げる(下方)ことと、横軸の原点を右にずらして経過分を前倒しで数える(左方)ことは、結果として似た形になる。ただしどちらの読み方を採るかで、退去時の割合は変わりうる。
図4の注記の書き方に寄せるなら、新築・交換直後でなければ、入居年数に「入居前にすでに経過していた年数」を足して数える、という理解になる。式でいえば、
賃借人負担割合(%) = (耐用年数 − (入居年数 + 入居前の経過年数)) ÷ 耐用年数 × 100
この「入居前の経過年数」を何年とするかが、まさに予め協議して決めるものとして書かれている部分になる。決まっていないなら、そこは計算の前提が無いということになる。
4. 年数で減らない部位がある(その理由まで)
割合を掛けない部位もある。どの部位が対象外かは別表の「経過年数の考慮等」欄に書かれているが、ここではなぜ対象外なのかのほうを引く。
フローリングの部分補修について。
フローリングを例にとると、補修を部分的に行ったとしても、将来的には全体的に張替えるのが一般的であり、部分補修がなされたからといって、フローリング全体としての価値が高まったと評価できるものではない(つぎはぎの状態になる)。よって、部分補修の費用全額を賃借人が負担しても、賃貸人が当該時点におけるフローリングの価値(経年変化や通常損耗による減少を考慮した価値)を超える利益を獲得することにはならないので、経過年数を考慮する必要はない。
部分補修では貸主が得をしないから、割合で減らす必要もない、という理屈になっている。ただし括弧書きで、こう続く。
(なお、フローリング全体にわたっての毀損によりフローリング全体を張り替えた場合は、経過年数を考慮するのが適当である。)
部分か全体かで扱いが逆になる。 明細の数量欄が効いてくるところになる。
襖紙・障子紙・畳表については、理由が別に書かれている。
また、襖紙や障子紙、畳表といったものは、消耗品としての性格が強く、毀損の軽重にかかわらず価値の減少が大きいため、減価償却資産の考え方を取り入れることにはなじまないことから、経過年数を考慮せず、張替え等の費用について毀損等を発生させた賃借人の負担とするのが妥当であると考えられる。
「消耗品だから減価償却の考え方になじまない」という整理になっている。畳「床」は6年で1円、畳「表」は年数を考慮しない、という分かれ方の理由がここにある。
5. 割合が下がりきっても、負担がゼロになるとは限らない
これも本文が同じ節に書いている。
なお、経過年数を超えた設備等を含む賃借物件であっても、賃借人は善良な管理者として注意を払って使用する義務を負っていることは言うまでもなく、そのため、経過年数を超えた設備等であっても、修繕等の工事に伴う負担が必要となることがあり得ることを賃借人は留意する必要がある。 具体的には、経過年数を超えた設備等であっても、継続して賃貸住宅の設備等として使用可能な場合があり、このような場合に賃借人が故意・過失により設備等を破損し、使用不能としてしまった場合には、賃貸住宅の設備等として本来機能していた状態まで戻す、例えば、賃借人がクロスに故意に行った落書きを消すための費用(工事費や人件費等)などについては、賃借人の負担となることがあるものである。
割合の話(物の残存価値)と、機能を戻す費用(工事費・人件費)は別の勘定として書かれている。「6年住んだから何を壊しても負担はゼロ」にはならない、というのが本文の書き方になる。
6. いちばん大事な留保:ガイドラインに法的拘束力はない
ここまで全部、ガイドラインの中の話になる。本文冒頭の「本ガイドラインの位置づけ」にこうある。
本ガイドラインについては、(中略)その使用を強制するものではなく、原状回復の内容、方法等については、最終的には契約内容、物件の使用の状況等によって、個別に判断、決定されるべきものであると考えられる。
第1章にも「法的な拘束力を持つものでもない」と明記されている。
だから、上の式で出した数字は「こうでなければならない額」ではない。契約書の原状回復条件・特約が先に来る。 この式が使えるのは、明細の割合が何を根拠にしているかを、同じ物差しの上で話すためだと思う。
もうひとつ。耐用年数6年は、すべての部位に当てはまるわけではない。 設備機器は「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」により設備ごとに異なるので、一律の年数は置けない。明細に設備機器の項目があるなら、「この設備の耐用年数を何年として計算しているか」が、式に入れる前の質問になる。
明細を受け取ったら計算してみる4点
- その項目は、年数で減る部位か。 減らない部位(襖紙・障子紙・畳表・フローリングの部分補修など)に割合が掛かっていないか、逆に、減る部位に掛かっていないか。
- 耐用年数は何年で計算されているか。 クロス・畳床・カーペット・クッションフロアは6年。設備機器は省令によるので聞く。
- 入居年数は何年か。そして出発点は何年か。 入居直前に交換されていれば0年から。そうでなければ、予め協議して決めることになっていた部分になる。
- 金額 × 割合 の掛け算が合っているか。 ここは電卓で検算できる。
「金額が高い」ではなく、「この割合は、耐用年数何年、入居年数何年で計算されていますか」と聞くほうが、資料の建て付けには沿っていると思う。
出典(すべて 2026-08-23 に本文PDFを取得して確認)
- 国土交通省住宅局「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」平成23年8月https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/torikumi/honbun2.pdf引用箇所は、冒頭「本ガイドラインの位置づけ」/第1章Ⅱ(2)①経過年数・②入居年数による代替・③経過年数(入居年数)を考慮しないもの/図3・図4とその注記/別表4の記入要領。
- 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」案内ページhttps://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000021.html
- 消費者庁「消費者ホットライン」188https://www.caa.go.jp/policies/policy/local_cooperation/local_consumer_administration/hotline/
- 引用は上記PDFの本文からそのまま引いた。太字は筆者による強調。
- 記事中の計算式は、ガイドラインが図で示している直線(定額法)を筆者が式に書き直したもので、ガイドラインに式として載っているものではない。計算例の金額・年数は式の使い方を示すために置いた仮の値で、実在の請求例ではない。
- 本記事は法律相談ではない。 最終的な負担の額は契約内容と個別の事情によって決まる。困っている場合は消費者ホットライン188(局番なし・相談無料、通話料は相談窓口につながった時点から自己負担)。
※ 退去費用の精算明細を「経過年数の欄があるか」「負担割合の計算が合っているか」「年数で減らない部位に割合が掛かっていないか」の観点で確認するものを個人で作っています。単価の高い・安いは判定しません → 退去費用チェッカー
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