記事2026-08-23
車検の見積に並ぶ整備項目26種を、点検基準と保安基準の条文に1つずつ当ててみた
車検の見積に並ぶ整備項目を、自動車点検基準の別表第六と道路運送車両の保安基準の条文に1項目ずつ当て、点検項目にあるもの・保安基準に直結するもの・どちらにも見当たらないものに仕分けた記録です。金額の高い安いは書きません。
この記事は 車検見積チェッカー(車検の見積を、依頼する前に確認)を作る過程で、 一次資料を読んだ記録です。事業者への送客はしていません。
車検の見積書を渡されて、後半の整備項目の一覧で止まる。ブレーキフルード交換、エアコンフィルター交換、下回り防錆施工。名前は読めるが、必要かどうかは判断できない。
金額のほうから攻めるのは、この領域では難しい。車検基本料と整備費用の相場について、公的統計・業界団体の公表調査・大手比較サイトの集計値のいずれにも、出典として示せる相場表を確認できなかった(2026年8月時点の調査範囲)。だから「この項目は○円だから高い」とは書けない。
そのかわり、項目ごとに「法令のどこに書いてあるか」は1つずつ引ける。車検の見積を仕分ける仕組みを作るために、自動車点検基準(昭和26年運輸省令第70号)と道路運送車両の保安基準の全文を e-Gov の法令データで取得して、見積によく出てくる26の項目を1つずつ当てていった。その結果の対応表がこの記事になる。
仕分けたのは、次の3つ(+両方に当たるもの)。
| 区分 | 意味 |
|---|---|
| 点検 | 自動車点検基準 別表第六(法定24ヶ月点検)に点検項目がある。ただし点検であって、交換の義務ではない |
| 保安 | 道路運送車両の保安基準の適合要件に直結する。適合しなければ継続検査に通らない |
| 両方 | 点検項目にもあり、保安基準の適合要件にも直結する |
| 見当たらない | 点検基準の全文にも保安基準の全条文にも該当項目が見当たらなかった。「不要」という意味ではない(理由は後述) |
A. 保安基準に直結するもの(適合しないと継続検査に通らない)
ここは点検か交換かという話ではなく、状態が基準を外れていれば継続検査に通らない、という性質のものになる。
| 項目 | 区分 | 条文の記載 |
|---|---|---|
| タイヤ | 両方 | 別表第六 走行装置 ホイール「(※1)タイヤの状態」(1年ごと)/保安基準第9条第2項・細目告示第167条第4項第二号(使用過程車)「いずれの部分においても1.6ミリメートル以上の深さを有すること」 |
| マフラ・排気系 | 両方 | 別表第六 エグゾースト・パイプ及びマフラ「(※1)取付けの緩み及び損傷」(1年ごと)「マフラの機能」(2年ごと)/保安基準第31条(ばい煙、悪臭のあるガス、有害なガス等の発散防止) |
| 灯火装置 | 保安 | 保安基準第32条(前照灯等)〜第42条(その他の灯火等の制限)。番号灯第36条、尾灯第37条、制動灯第39条、方向指示器第41条ほか |
| ワイパー・ウォッシャー | 保安 | 保安基準第45条(窓ふき器等)「前面ガラスの直前の視野を確保できるものとして、…自動式の窓ふき器を備えなければならない」/第2項で洗浄液噴射装置及びデフロスタ |
| 発炎筒(非常信号用具) | 保安 | 保安基準第43条の2「自動車には、…非常信号用具を備えなければならない」/細目告示第220条第2項「損傷し、又は湿気を吸収したため、性能の著しく低下した発炎筒」は不適合 |
気づいたことが2つある。
ワイパーは24ヶ月点検の項目には無い。 別表第六を探しても出てこない。出てくるのは日常点検(別表第二)の「ワイパーの払拭状態が不良でないこと」と、保安基準第45条のほうになる。「法定点検の項目だから交換」ではなく、払拭が不良なら保安基準の側で効く、という筋になる。
発炎筒は「有効期限切れなら即不合格」とは書かれていない。 細目告示第220条第2項が不適合としているのは「損傷し、又は湿気を吸収したため、性能の著しく低下した発炎筒」で、期限切れそのものを不適合とする明文は確認できなかった。だからこの記事でも、そこまでは書かない。
B. 点検項目にあるもの(点検であって、交換の義務ではない)
ここがいちばん数が多い。別表第六に並んでいる文言をそのまま置くと、何が求められているかが見える。
| 項目 | 別表第六の記載 |
|---|---|
| ブレーキフルード(ブレーキ液) | マスタ・シリンダ、ホイール・シリンダ及びディスク・キャリパ「液漏れ」(1年ごと) |
| ブレーキホース・パイプ | 制動装置 ホース及びパイプ「漏れ、損傷及び取付状態」(1年ごと) |
| ブレーキパッド・ライニング | ブレーキ・ディスク及びパッド「(※1)パッドの摩耗」/ブレーキ・ドラム及びブレーキ・シュー「(※1)シューの摺動部分及びライニングの摩耗」(いずれも1年ごと) |
| ブレーキディスク・ドラム | ブレーキ・ディスク及びパッド「ディスクの摩耗及び損傷」/ブレーキ・ドラム及びブレーキ・シュー「ドラムの摩耗及び損傷」(いずれも2年ごと) |
| 冷却水(クーラント) | 冷却装置「ファン・ベルトの緩み及び損傷/水漏れ」(1年ごと) |
| ファンベルト・Vベルト | 原動機 冷却装置「ファン・ベルトの緩み及び損傷」/パワー・ステアリング装置「ベルトの緩み及び損傷」(いずれも1年ごと) |
| エンジンオイル | 原動機 潤滑装置「油漏れ」(1年ごと) |
| バッテリー | バッテリ「ターミナル部の接続状態」(1年ごと) |
| 点火プラグ(スパークプラグ) | 電気装置 点火装置「(※1)(※2)点火プラグの状態」(1年ごと) |
| エアクリーナーエレメント | 原動機 本体「(※1)エア・クリーナ・エレメントの状態」(1年ごと) |
| ATF・CVTF(変速機の油) | 動力伝達装置 トランスミッション及びトランスファ「(※1)油漏れ及び油量」(1年ごと) |
| デフオイル | 動力伝達装置 デファレンシャル「(※1)油漏れ及び油量」(2年ごと) |
| パワステフルード | かじ取り装置 パワー・ステアリング装置「油漏れ及び油量」(2年ごと) |
| ドライブシャフトブーツ | 動力伝達装置 プロペラ・シャフト及びドライブ・シャフト「自在継手部のダスト・ブーツの亀裂及び損傷」(2年ごと) |
| ボールジョイントのダストブーツ | かじ取り装置 ロッド及びアーム類「ボール・ジョイントのダスト・ブーツの亀裂及び損傷」(2年ごと) |
| ショックアブソーバ | 緩衝装置 ショック・アブソーバ「油漏れ及び損傷」(2年ごと) |
並べてみて、書き方が3種類しかないことに気づく。「漏れ」「量」「摩耗」「損傷」「状態」「緩み」。どれも状態の確認であって、何年で交換する、何キロで交換する、という周期の規定はどこにも置かれていない。
液体類(ブレーキフルード・冷却水・エンジンオイル・ATF・デフオイル・パワステフルード)は、点検項目が全部「油漏れ」または「油漏れ及び油量」になっている。漏れているか、量が足りているかが点検の対象で、劣化したから替える、という話は点検基準の側には無い。日常点検(別表第二)のほうも「ブレーキの液量が適当であること」「冷却水の量」「エンジン・オイルの量が適当であること」と、量の話になっている。
交換そのものが法令の外にあるわけではない。国土交通省告示第317号「自動車の点検及び整備に関する手引」の点検整備記録簿の記載例には、こうある。
整備の概要については、交換した主な部品(ブレーキ液、ブレーキ・ホースなど)や測定結果(ブレーキ・ライニング、ブレーキ・パッドの厚みなど)なども必要に応じ記載します。
交換は「点検の結果として起きること」として扱われている、という書き方になる。だから聞き方は「この項目は必要ですか」より、「点検の結果、どの数値がどうだったので交換なんですか」のほうが、法令の建て付けに沿う。ブレーキパッドなら厚みの測定結果、という形で。
表の中の(※1)(※2)について
別表第六の注記に、点検自体を省略できる場合が2つ書かれている。
(※1)印の点検は、自動車検査証の交付を受けた日又は当該点検を行つた日以降の走行距離が1年当たり5千キロメートル以下の自動車については、前回の当該点検を行うべきこととされる時期に当該点検を行わなかつた場合を除き、行わないことができる。 (※2)印の点検は、点火プラグが白金プラグ又はイリジウム・プラグの場合は、行わないことができる。
上の表で(※1)が付いているのが、その対象になる。ただしこれは「点検を行わないことができる」であって、「整備が不要」ではない。
C. 点検基準にも保安基準にも、該当項目が見当たらなかったもの
見積によく出てくるのに、両方の全文を探しても当たる項目が見つからなかったものがある。
| 項目 | 探した結果 |
|---|---|
| エアコンフィルター | 自動車点検基準の全文に「エアコン」「フィルタ」の該当項目が見当たらない(「エア・コン」の語は大型車のエア・コンプレッサを指す別項目)。保安基準第31条第6項は客室冷房装置の導管及び安全装置の取付位置の規定で、フィルターの点検・交換を定めたものではない |
| オイルフィルター(オイルエレメント) | 別表第六の潤滑装置の点検項目は「油漏れ」のみで、オイルフィルターに該当する項目が見当たらない |
| タイミングベルト | 別表第六に該当項目が見当たらない。切損すると走行不能になる部品で、メーカーの指定交換時期(メンテナンスノート)で判断されるのが通常 |
| 下回り防錆・アンダーコート | 「下回り」「防錆」の語は自動車点検基準にも保安基準にも見当たらない。近いのは別表第六「車枠及び車体/緩み及び損傷」(2年ごと)だが、錆の除去・防錆処理を求める規定ではない |
| 添加剤・コーティング等 | 自動車点検基準・保安基準・手引のいずれにも該当項目が見当たらない |
なぜ、これを「不要」と書かないか
ここを間違えると危ないので、はっきり書いておく。「点検項目に無い」は「整備が不要」を意味しない。
道路運送車両法は、点検項目のリストとは別に整備義務を課す作りになっている。第47条の2第3項と第48条第2項が、「点検の結果、保安基準に適合しなくなるおそれがある状態又は適合しない状態にあるとき」に整備をしなければならないと定めていて、これは点検項目リストの外側にも及ぶ。
手引のほうも、こう書いている。
ここでは、「2日常点検の実施の方法」や「3定期点検の実施の方法」に基づき点検を行った結果又は点検を行わなくとも使用状況等によって、清掃、調整、交換などの整備が必要となった場合、通常行われることが多いものの代表例について、その実施の方法を説明しています。
「点検を行わなくとも使用状況等によって」整備が必要になり得る、と明記されている。タイミングベルトはその典型で、点検基準に項目が無くても、切れれば走行不能になる。
だからこの表から言えるのは、ここまでになる。
- 「これは法定24ヶ月点検の点検項目です」(区分B)
- 「これは保安基準の適合要件に直結します」(区分A)
- 「これは点検基準にも保安基準にも該当項目が見当たらないので、すすめる理由を聞く必要があります」(区分C)
「不要です」ではない。区分Cの項目については、測定結果・走行距離・メーカーの指定交換時期のどれを根拠にしているのかを聞く、という形になる。
この表の限界(留保)
3つある。
1. 車種と用途が限定されている。 別表第六は「自家用乗用自動車等の定期点検基準」で、事業用や大型車は別の表になる。上の対応は自家用乗用車を前提にしている。
2. 「見当たらなかった」は「存在しない」ではない。 探したのは自動車点検基準の全文(別表第一〜第八・全条文)と保安基準の全条文で、その範囲で該当項目が見つからなかったという記録になる。細目告示や他の告示の側に関連する規定がある可能性は残る。
3. 点検項目にあること自体は、交換の根拠にならない。 これは§Bの繰り返しになるが、いちばん取り違えやすいところだと思う。自動車点検基準の全文に「交換」という語は一度も出てこない(2026年8月23日時点で e-Gov の法令データを取得して確認)。点検基準が定めているのは点検、つまり状態の確認だけになる。
見積の整備項目を読むときの4点
- その項目は、上の表のA・B・Cのどれか。 名前で分かるものはそのまま、分からないものは点検基準の別表第六を引く(e-Gov で全文が読める)。
- Bなら、点検の結果の数値を聞く。 「厚みが何ミリだったか」「どこから漏れていたか」。点検整備記録簿に測定結果を記載する運用になっている。
- Cなら、すすめる理由の出どころを聞く。 走行距離か、メーカーの指定交換時期か、目視の所見か。
- Aは、金額ではなく状態の話。 溝が1.6ミリ未満のタイヤは、値段の交渉をしても継続検査には通らない。
「この項目は必要ですか」は、答えが「はい」しか返ってこない聞き方になりやすい。「どの区分の項目で、根拠は何ですか」のほうが、返事が具体的になると思う。
出典(すべて 2026-08-23 に本文を取得して確認)
- e-Gov法令検索「自動車点検基準」(昭和26年運輸省令第70号)別表第二(日常点検基準)・別表第六(自家用乗用自動車等の定期点検基準)・別表第八https://laws.e-gov.go.jp/law/326M50000800070
- e-Gov法令検索「道路運送車両の保安基準」(昭和26年運輸省令第67号)第9条・第12条・第31条・第32条〜第42条・第43条の2・第45条https://laws.e-gov.go.jp/law/326M50000800067
- e-Gov法令検索「道路運送車両法」(昭和26年法律第185号)第47条の2・第48条・第62条https://laws.e-gov.go.jp/law/326AC0000000185
- 国土交通省告示第317号「自動車の点検及び整備に関する手引」(最終改正 令和7年7月8日)https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha/tenkenseibi/images/t_tebiki.pdf
- 国土交通省「自動車の点検整備(定期点検基準)」https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha/tenkenseibi/tenken/t1/t1-2/index.html
- 引用は上記の本文からそのまま引いた。太字は筆者による強調。細目告示の条番号は保安基準の適用関係を示す告示のもの。
- 本記事は整備の要否を判断するものではない。 実際に交換が必要かどうかは車両の状態によるので、判断は整備士に委ねる話になる。この記事がやったのは、項目が法令のどこに書いてあるかを引いただけになる。
※ 車検の見積書の整備項目を「法定24ヶ月点検の項目か」「保安基準に直結するか」「どちらでもないか」に仕分けるものを個人で作っています。金額の高い・安いは判定しません → 車検見積チェッカー
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