記事2026-08-23

相続登記の3年は「亡くなった日から」ではない — 起算点・過料・相続人申告登記を条文で確認する(2026年8月時点)

2024年4月1日から相続登記の申請が義務になりました。期限は3年ですが、起算点は死亡日ではなく条文で決まっています。施行日前の相続の期限、10万円以下の過料が科されるまでの手続、相続人申告登記でできること・できないこと、2027年3月末までの登録免許税の免税措置を、法務省・法務局・条文の記載だけで整理しました。

この記事は 相続登記見積チェッカー相続登記の見積を、依頼する前に確認)を作る過程で、 一次資料を読んだ記録です。事業者への送客はしていません。

相続登記の義務化について、「3年以内にやらないと10万円」という一行だけが伝わっている状態をよく見る。

この題材は、数字がほぼ全部法令に書いてあるという点で珍しい。期限も、起算点も、過料の上限も、免税の金額も、条文か官庁の公表資料に載っている。だから、急かされて判断するのではなく、自分の場合の期限を自分で計算することができる。

この記事では、条文と法務省・法務局の記載だけを並べる。判断は書かない。


1. 期限の起算点は「亡くなった日」ではない

不動産登記法第76条の2第1項は、こうなっている。

所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により所有権を取得した者も、同様とする。

(e-Gov法令検索「不動産登記法」第76条の2第1項。太字は筆者)

読むと、条件が2つあることが分かる。

  • 自己のために相続の開始があったことを知った
  • その不動産の所有権を取得したことを知った

この2つが揃った日が起算点になる。多くの場合は「亡くなったことを知った日」と近いところに落ち着くが、条文はそう書いていない。たとえば、亡くなったことは知っていたが、その人名義の不動産があること自体を後から知った、という順序があり得る。

  • 遺贈も対象になるが、相続人に対する遺贈に限られる。相続人以外への遺贈はこの条文の義務の対象ではない。
  • 施行日は令和6年(2024年)4月1日(法務省「相続登記の申請義務化について」)。

2. 施行日より前に開始していた相続も対象。その期限は2027年3月31日

ここが「義務化の前の分は関係ない」と誤解されやすいところで、法務省はこう書いている。

令和6年4月1日より前に相続したことを知った不動産で、相続登記がされていないものについては、令和9年3月31日までに相続登記をする必要があります。

(法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」)

義務化のページ側の書き方はこう。

令和9年3月31日まで(不動産を相続で取得したことを知った日が令和6年4月以降の場合は、その日から3年以内)

つまり、施行日前の分は「一律に2027年3月31日」ではなく、知った日が2024年4月以降なら、そこから3年になる。この記事を書いている2026年8月23日から2027年3月31日までは、およそ7か月ある。


3. 遺産分割が決まると、期限がもう1本立つ

義務は1回で終わりとは限らない。条文は2段構えになっている。

2 前項前段の規定による登記(民法第九百条及び第九百一条の規定により算定した相続分に応じてされたものに限る。次条第四項において同じ。)がされた後に遺産の分割があったときは、当該遺産の分割によって当該相続分を超えて所有権を取得した者は、当該遺産の分割の日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。

(不動産登記法第76条の2第2項)

整理すると、こうなる。

場面起算点期限根拠
相続で所有権を取得した相続の開始を知り、かつ所有権の取得を知った日3年以内不登法76条の2第1項
施行日前に開始した相続(取得を知ったのが2024年3月31日以前)2027年3月31日まで法務省Q&A
法定相続分で登記した後に遺産分割が成立し、相続分を超えて取得した遺産分割の日3年以内不登法76条の2第2項
相続人申告登記をした後に遺産分割で所有権を取得した遺産分割の日3年以内不登法76条の3第4項

3年以内に遺産分割がまとまって、その内容どおりの登記をそのまま申請する場合は、最初の義務をそれで果たすことになる。期限が2本立つのは、先に法定相続分で登記した場合や、相続人申告登記で先に義務を果たした場合の話になる。


4. 過料は10万円以下。ただし、いきなり科される作りにはなっていない

条文はこう。

第百六十四条 (中略)第七十六条の二第一項若しくは第二項又は第七十六条の三第四項の規定による申請をすべき義務がある者が正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、十万円以下の過料に処する。

(不動産登記法第164条第1項)

ここで、実際にどう運用されるかを法務省のQ&Aが書いている。

登記官が、義務違反を把握した場合、義務違反者に登記をするよう催告します(催告書を送付します。) (催告期限内に登記されない場合)登記官は、裁判所に対してその申請義務違反を通知します 裁判所において、要件に該当するか否かを判断し、過料を科する旨の裁判が行われます

過料を決めるのは裁判所で、その前に登記官の催告が入る、という順序になっている。「期限を1日過ぎたら自動的に10万円」という作りではない。

「正当な理由」として挙げられている例

同じQ&Aが、正当な理由があると考えられる例を挙げている。

相続人が極めて多数に上り、かつ、戸籍関係書類等の収集や他の相続人の把握等に多くの時間を要する場合 遺言の有効性や遺産の範囲等が相続人等の間で争われている場合 相続登記の義務を負う者自身に重病その他これに準ずる事情がある場合 被害者その他これに準ずる者であり、その生命・心身に危害が及ぶおそれがある状態にあって避難を余儀なくされている場合 経済的に困窮しているために、登記の申請を行うために要する費用を負担する能力がない場合

最後の1つが挙がっていることは、あまり知られていないと思う。

読み違えやすいところ

  • 10万円以下の過料は「相続登記」のほう。 同じ第164条の第2項は、第76条の5(所有権の登記名義人の氏名・住所の変更登記)の義務違反について5万円以下の過料と定めている。別の義務・別の額なので、混ぜて読まない。
  • 「以下」であって定額ではない。 額は裁判所が判断する。

5. 3年以内に登記まで行けないときのために「相続人申告登記」がある

不動産登記法第76条の3が用意している仕組みで、法務省の説明はこう。

期限内(3年以内)に相続登記の申請をすることが難しい場合に簡易に相続登記の申請義務を履行することができるようにする仕組み

条文の効果はここに書かれている。

2 前条第一項に規定する期間内に前項の規定による申出をした者は、同条第一項に規定する所有権の取得(当該申出の前にされた遺産の分割によるものを除く。)に係る所有権の移転の登記を申請する義務を履行したものとみなす

(不動産登記法第76条の3第2項)

分かっている範囲でまとめると、こうなる。

  • 特定の相続人が単独で申し出ることができる(他の相続人の分も含めた代理申出も可)。全員の足並みを揃える必要がない
  • 登録免許税がかからない(法務省「相続人申告登記について」)
  • 申出があると、登記官が職権で、申出をした者の氏名・住所などを所有権の登記に付記する(同第3項)

ただし、これは「登記が済んだ」ということではない

法務省自身が、はっきり2つの限界を書いている。

不動産についての権利関係を公示するものではない

遺産分割に基づく相続登記の申請義務を履行することはできない

前者は、持分が登記されるわけではないということ。後者は条文の第4項に対応していて、申出をした人がその後の遺産分割で所有権を取得したら、遺産分割の日から3年以内に所有権移転の登記を申請する義務が別に立つ

つまり相続人申告登記は、義務の期限に対する手当てであって、権利の登記の代わりではない。ここを取り違えると、後で「登記したつもりだった」という状態になる。


6. 登録免許税は、評価額が分かれば自分で検算できる

相続による所有権移転登記の税率は、国税庁のタックスアンサーにこうある。

相続 … 不動産の価額 1,000分の4

課税標準となる「不動産の価額」は、市町村役場で管理している固定資産課税台帳に登録された価格がある場合は、原則その価格です。固定資産課税台帳に登録された価格がない場合は、登記官が認定した価額になります

(国税庁 タックスアンサー No.7191「登録免許税の税額表」)

対比のために書いておくと、土地の売買は1,000分の20(令和11年3月31日までに登記を受ける場合は1,000分の15)。相続はもともと低い税率が引かれている。

端数の処理は、条文で決まっている。

  • 課税標準に1,000円未満の端数があるときは切り捨て(国税通則法第118条第1項)
  • 課税標準の全額が1,000円に満たないときは1,000円とする(登録免許税法第15条)
  • 税額に100円未満の端数があるときは切り捨て(国税通則法第119条第1項)
  • 税率を適用して計算した金額が1,000円に満たない場合の税額は1,000円(登録免許税法第19条)
  • 持分の取得なら、不動産全体の価額に持分の割合を乗じた額が課税標準になる(登録免許税法第10条第2項)

計算例をひとつ。評価額の合計が 12,345,678円 の場合。

12,345,678円 → 課税価格 12,345,000円(1,000円未満切捨て) → ×4/1000 = 49,382.4円 → 49,300円(100円未満切捨て)

登録免許税は税金なので、消費税は乗らない。 見積の登録免許税の欄に消費税が上乗せされていたら、そこは確認どころになる(司法書士の報酬には消費税がかかる)。


7. 登録免許税の免税措置は2つ。どちらも2027年3月31日まで

法務局のページに、2つの免税措置が並んでいる。

免税措置内容適用期間根拠
① 相続人が登記前に死亡した場合個人が相続により土地の所有権を取得した場合に、その個人が所有権移転登記を受ける前に死亡したときは、その個人を登記名義人とするための登記が非課税平成30年4月1日〜令和9年3月31日租税特別措置法第84条の2の2第1項
② 価額100万円以下の土地不動産の価額が100万円以下の土地についての相続による所有権移転登記が非課税平成30年11月15日〜令和9年3月31日(表題部所有者の相続人が受ける所有権保存登記は令和3年4月1日〜令和9年3月31日)租税特別措置法第84条の2の2第2項

どちらも「土地」についての措置で、建物には書かれていない。

そして、見落とされやすいのがここになる。

登録免許税の免税措置の適用を受けるためには、免税の根拠となる法令の条項を申請書に記載する必要があります

(法務局「相続登記の登録免許税の免税措置について」)

申請書に条項を書かないと、要件を満たしていても免税にならない。 ①は「租税特別措置法第84条の2の2第1項により非課税」、②は「同条第2項により非課税」と書く形になる。


8. 実費のうち、額が法定されているもの

見積に「実費」としてまとめられることが多い部分のうち、全国一律の額が決まっているものを並べておく。

書類出典
登記事項証明書(書面請求)600円法務省「登記手数料について」(令和7年4月1日適用)
同(オンライン請求・郵送)520円同上
同(オンライン請求・窓口交付)490円同上
戸籍の謄本・抄本/戸籍証明書一通450円地方公共団体の手数料の標準に関する政令 別表
除かれた戸籍の謄本・抄本/除籍証明書一通750円同上

固定資産評価証明書の手数料は、この表に入れていない。 市区町村が条例で定めるため全国一律の額が存在せず、突合できる公定額を確認できなかった。


9. 亡くなった人名義の不動産が分からないとき

「そもそもどの不動産が対象なのか分からない」という状態への手当てが、2026年に入ってから始まっている。

所有不動産記録証明制度(令和8年2月2日施行)。特定の被相続人が所有権の登記名義人として記録されている不動産を、一覧にして証明書として交付するものになる。請求できるのは所有権の登記名義人と、その相続人その他の一般承継人(代理人による請求も可)。

手数料は、法務省の説明では検索条件1件につき1通あたり書面請求1,600円/オンライン請求・郵送1,500円/オンライン請求・窓口交付1,470円


10. 司法書士の報酬に公定価格はない

登録免許税と実費は法定額だが、報酬はそうではない。日本司法書士会連合会はこう書いている。

各司法書士が自由に定めることになっています

会則では、司法書士の報酬は、その額や算定方法・諸費用を明示し、依頼者との合意によって決定することになっています

したがって、この記事では報酬の金額の高い・安いを一切書かない。書けるのは、見積を「登録免許税(法定額と検算できる)」「実費(上の表と突合できるものがある)」「報酬(合意で決まる)」の3つに分けて、どこが法定でどこが交渉の対象なのかを把握するところまでになる。

なお、自分で申請する場合の相談先として、法務局が登記手続案内を用意している。完全予約制で、1回あたり20分以内。電話・法務局窓口での対面・ウェブ会議から選べる。


自分の期限を確認する4点

  1. 起算点は、相続の開始を知り、かつその不動産の所有権を取得したことを知った日。 亡くなった日でも、遺産分割が終わった日でもない。
  2. その日が2024年3月31日以前なら、期限は2027年3月31日。 2024年4月以降なら、その日から3年。
  3. 法定相続分で登記した後や、相続人申告登記の後に遺産分割が成立したら、分割の日から3年の期限が別に立つ。 相続人申告登記は義務の履行手段であって、権利の登記ではない。
  4. 土地で、価額が100万円以下、または前の相続人が登記前に死亡している場合は、免税措置の対象になり得る。 ただし申請書に根拠条項を書かないと適用されない。どちらも2027年3月31日まで。

過料の話が先に立ちがちだが、条文と法務省の説明を並べると、催告があり、裁判所が判断し、正当な理由の例も公表されているという作りになっている。急いで決める前に、まず自分の起算点を確定させるほうが順序としては合っている。


出典(すべて 2026-08-23 に本文を取得して確認)

※ 相続登記の見積を「登録免許税(法定額との検算)」と「報酬・実費」に仕分けるものを個人で作っています → 相続登記見積チェッカー

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