記事2026-08-23

地震保険で「全損」と認定されても、戻るのは火災保険金額の100%ではない — 30〜50%という枠を、契約の数字で確かめる

地震保険の保険金額は、火災保険金額の30%〜50%の範囲内でしか設定できません(地震保険に関する法律 第二条)。全損と認定されたときに支払われるのはその地震保険金額の全額で、火災保険金額の全額ではありません。財務省・法令・損害保険料率算出機構の記載だけで、証券のどの数字を見れば受け取れる額が分かるのかを整理しました。

この記事は 火災保険・地震保険チェッカー住まいの保険を、更新する前に確認)を作る過程で、 一次資料を読んだ記録です。事業者への送客はしていません。

地震保険に入っている、という認識はあっても、地震のときにいくら受け取れるかまで答えられる人は多くないと思う。証券に「地震」と書かれた欄があって、そこに金額が入っている。その金額が何を意味しているのか、という話になる。

先に結論を書くと、こうなる。

  • 地震保険の保険金額は、火災保険金額の30%〜50%の範囲内でしか設定できない(地震保険に関する法律 第二条第二項第四号)
  • 「全損」と認定されたときに支払われるのは、その地震保険金額の全額(地震保険に関する法律施行令 第一条第一項第一号)
  • したがって、火災保険金額の100%が戻ってくることはない。下限の30%で契約していれば、全損でも火災保険金額の30%が上限になる

ここは保険会社ごとに変わるところではなく、法律と政令に書いてある。順に条文で確かめていく。


1. 保険金額の範囲は、法律の条文に書いてある

地震保険に関する法律(昭和41年法律第73号)第二条第二項は、「地震保険契約」の要件を4つ並べている。そのうちの第四号がこうなっている。

附帯される損害保険契約の保険金額の百分の三十以上百分の五十以下の額に相当する金額(その金額が政令で定める金額を超えるときは、当該政令で定める金額)を保険金額とすること。

同じ項の第三号は「特定の損害保険契約に附帯して締結されること」。これが、地震保険を単独で契約できない理由になる。財務省の説明はこう。

地震保険は、火災保険に付帯する方式での契約となりますので、火災保険への加入が前提となります。地震保険は火災保険とセットでご契約ください。すでに火災保険を契約されている方は、契約期間の中途からでも地震保険に加入できます。

そして「政令で定める金額」=限度額は、施行令の第二条にある。

法第二条第二項第四号に規定する政令で定める金額は、居住用建物については五千万円、生活用動産については千万円とする。

まとめると、建物についてはこうなる。

建物の火災保険金額地震保険金額(下限30%)地震保険金額(上限50%)
2,000万円600万円1,000万円
3,000万円900万円1,500万円
5,000万円1,500万円2,500万円
1億2,000万円3,600万円5,000万円(6,000万円ではなく限度額)

家財(法令上は「生活用動産」)も同じ30〜50%の枠で、限度額は1,000万円になる。


2. 「全損」で支払われるのは、地震保険金額の全額

損害の程度は4つに区分されていて、区分ごとの支払額は施行令の第一条第一項が定めている。第一号(建物の全損)はこう書かれている。

居住用建物の全損(居住用建物の主要構造部の損害額が当該居住用建物の時価の百分の五十以上である損害又は居住用建物の焼失し若しくは流失した部分の床面積の当該居住用建物の延べ床面積に対する割合が百分の七十以上である損害をいう。)……保険金額の全額

以下、大半損は「保険金額の百分の六十に相当する金額」、小半損は「百分の三十」、一部損は「百分の五」と続く。建物の認定基準と合わせて並べるとこうなる。

損害区分支払われる額主要構造部の損害額 ÷ 時価焼失・流失した床面積 ÷ 延べ床面積
全損地震保険金額の全額50%以上70%以上
大半損地震保険金額の60%40%以上50%未満50%以上70%未満
小半損地震保険金額の30%20%以上40%未満20%以上50%未満
一部損地震保険金額の5%3%以上20%未満

家財は、家財全体の時価に対する損害額の割合で決まる。全損80%以上、大半損60%以上80%未満、小半損30%以上60%未満、一部損10%以上30%未満。

財務省の表には、それぞれの区分に「時価額が限度」「時価額の60%が限度」といった注記も付いている。

ここが読み違えやすい

  • 割合がかかる相手は「地震保険金額」であって、火災保険金額ではない。 建物の火災保険金額2,000万円・地震保険金額を下限の30%(600万円)で契約している場合、全損と認定されても600万円が上限になる。上限の50%(1,000万円)で契約していれば1,000万円。同じ「全損」でも、契約時に決めた数字で受け取れる額が変わる、というのが制度の形になる。
  • 「全損」は建物が全部壊れることではない。 基準は「主要構造部の損害額が時価の50%以上」または「焼失・流失した床面積が延べ床面積の70%以上」。逆に、見た目の壊れ方の感覚と区分の名前は一致しないことがある。
  • 平成28年以前を保険始期とする契約は3区分。 「半損」(地震保険金額の50%)があり、大半損・小半損に分かれていない。平成29年1月1日施行の施行令改正で「半損」が2つに分割された、と財務省が明記している。証券の保険始期を見ないと、どちらの表を見ればよいか決まらない。
  • 支払われない場合も公表されている。 財務省は「保険金をお支払いできない主な場合」として、故意もしくは重大な過失または法令違反による損害、地震などの発生日の翌日から起算して10日経過後に生じた損害、戦争・内乱などによる損害、地震等の際の紛失・盗難の場合を挙げている。

3. 下限で契約していること自体は、誤りではない

30%で契約するか50%で契約するかは、保険料に直結する。地震保険の保険料は保険金額に比例して決まるので、下限にすればそのぶん保険料は下がる。下限で契約していることが間違いだ、という話ではない。

地震保険法の第一条は、制度の目的をこう書いている。

この法律は、保険会社等が負う地震保険責任を政府が再保険することにより、地震保険の普及を図り、もつて地震等による被災者の生活の安定に寄与することを目的とする。

「生活の安定に寄与する」であって、建て直しの費用を全額まかなうとは書かれていない。だから、この記事で書けるのはここまでになる。全損と認定された場合に受け取れる額がいくらなのかを、いま持っている証券の数字で確かめられる。 そのうえで、その額で足りるかどうかを決めるのは契約者の側になる。


4. 地震保険は「安い会社を探す商品」ではない

ここが、この領域でいちばん誤解されているところだと思う。

地震保険法の第五条第1項は、保険料率についてこう定めている。

政府の再保険に係る地震保険契約の保険料率は、収支の償う範囲内においてできる限り低いものでなければならない。

その基準料率を算出しているのが損害保険料率算出機構(損害保険料率算出団体に関する法律に基づいて設立された非営利の民間法人)で、金融庁長官に届け出ている。同機構の資料は、保険料の内訳についてこう書いている。

なお、地震保険は政府と保険会社が共同で運営する公共性の高い保険であるため、利潤を織り込んでいません

財務省の広報誌も同じことを、こう書いている。

保険料には保険会社の利潤が織り込まれておらず、保険会社や国に利益が出ない仕組みになっている(ノーロス・ノープロフィット)

では何で決まるのか。財務省はこうしている。

地震保険の保険料は、保険対象である居住用建物および家財を収容する建物の構造、所在地により算出されます。

しかも、その基本料率の表そのものが財務省のサイトに公表されている。保険金額1,000万円あたり・保険期間1年につきの額で、都道府県 × 建物構造(イ構造=主として鉄骨・コンクリート造建物等/ロ構造=主として木造建物等)の2軸だけで決まる。抜粋するとこうなる。

都道府県イ構造ロ構造
北海道・青森県・岩手県・秋田県・山形県・栃木県 ほか7,300円11,200円
宮城県・福島県・山梨県・愛知県・三重県・大阪府 ほか11,600円19,500円
茨城県・徳島県・高知県23,000円41,100円
埼玉県26,500円41,100円
千葉県・東京都・神奈川県・静岡県27,500円41,100円

(財務省「地震保険の基本料率(令和4年10月1日以降保険始期の地震保険契約)」より抜粋。全47都道府県の額が同じページに載っている)

そして実際に使われる料率は、機構の資料によれば次の式になる。

基準料率 = 基本料率 × 割引率 × 長期係数

長期係数は保険期間で決まる定数で、財務省が2年1.90・3年2.85・4年3.75・5年4.70と公表している。つまり、変数は「都道府県」「建物構造」「割引」「保険期間」「保険金額」だけということになる。

だから比べるのは、保険料ではない

会社を替えても都道府県は変わらないし、建物構造も変わらない。なお、ここまでの資料は「どの保険会社で入っても地震保険料が完全に同一である」ことまでは述べていない。言えるのは、地震保険が保険料で差をつける設計になっていない、というところまでになる。そのうえで、比べる意味があるのは次の2つになる。

  1. 保険金額の設定(30〜50%のどこに置いてあるか、家財にも付けてあるか)
  2. 割引を取りこぼしていないか

なお、火災保険のほうの保険料は各社が独自に決めているので差は出るが、公的な標準料率表は今回の調査範囲では見つけられなかった。だからこの記事では、火災保険料の高い・安いも書かない。


5. 割引は4種類あり、重複しない

財務省のページに、割引の一覧が表で載っている。

割引制度対象割引率
免震建築物割引「住宅の品質確保の促進等に関する法律」に基づく「免震建築物」である場合50%
耐震等級割引(耐震等級3)日本住宅性能表示基準に定められた耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)等を有している場合50%
耐震等級割引(耐震等級2)同上30%
耐震等級割引(耐震等級1)同上10%
耐震診断割引地方公共団体等による耐震診断または耐震改修の結果、建築基準法(昭和56年6月1日施行)における耐震基準を満たす場合10%
建築年割引対象物件が、昭和56年6月1日以降に新築された建物である場合10%

重複できないことは、財務省・機構の双方が明記している。

割引制度として、「建築年割引」と「耐震等級割引」、「免震建築物割引」、「耐震診断割引」の4種類が設けられており、建築年または耐震性能により、居住用建物およびこれに収容される家財に対し10%~50%の割引が適用されます(重複不可)。

なお、これら4種類の割引は、重複して適用されません

適用には確認書類が要る

機構の資料は、割引ごとに確認書類を具体的に挙げている。

割引確認書類(機構の記載)
建築年割引建物登記簿、重要事項説明書(宅地建物取引業者が建物の売買、交換または貸借の相手方等に対して交付) 等
耐震等級割引住宅性能評価書(登録住宅性能評価機関から交付)、耐震性能評価書(登録住宅性能評価機関または指定確認検査機関から交付) 等
免震建築物割引住宅性能評価書(登録住宅性能評価機関から交付) 等
耐震診断割引耐震診断または耐震改修の結果により減税措置の適用を受けるための証明書、国土交通省の定める基準(平成18年国土交通省告示185号)に適合することを証明した書類 等

同じ資料に「※実際の確認書類などの具体的事項につきましては、保険会社にお問い合わせ下さい。」という注記も付いている。

割引が適用される時期(書類を出したらさかのぼるのか、次の保険期間からなのか)については、公的な資料での記載を今回は確認できなかったので、この記事では書かない。 保険会社に聞く項目になる。

ここが読み違えやすい

  • 建築年割引の境目は「昭和56年6月1日以降に新築された建物」。 契約日でも購入日でもなく、新築の時期になる。
  • 重複しないので、いちばん割引率の大きいものが1つだけ効く。 建築年割引(10%)が付いている建物でも、耐震等級2の証明が出せれば30%、等級3なら50%になる。手元に住宅性能評価書があるかどうかで結果が変わる、というのが実務上の分かれ目になる。
  • 割引は建物だけでなく家財にも及ぶ。 財務省は「居住用建物およびこれに収容される家財に対し」と書いている。

6. 地震保険料控除

財務省のページに、控除額の上限が書かれている。

平成19年1月より、地震災害による損失への備えに係る国民の自助努力を支援するため、従来の損害保険料控除が改組され、地震保険料控除が創設されました。これにより、所得税(国税)が最高5万円、住民税(地方税)が最高2万5千円を総所得金額等から控除できるようになりました。

所得税側の計算は国税庁のタックスアンサーNo.1145にある。

1年間に支払った地震保険料控除額
50,000円以下支払金額の全額
50,000円超一律50,000円

平成18年12月31日までに契約した一定の長期損害保険契約(旧長期損害保険料)は別枠の計算になり、両方がある場合は合計で最高50,000円、と国税庁が定めている。なお、住民税の2万5千円という額は財務省のページの記載で、国税庁のタックスアンサーは所得税だけを扱っている。


証券を開いたら見る5点

  1. 地震保険が付いているか。 火災保険では、地震を原因とする火災による損害や、地震により延焼・拡大した損害は補償されない(財務省)。単独では契約できないが、火災保険の契約期間の中途からでも加入できる。
  2. 建物の地震保険金額は、火災保険金額の何%か。 30%なのか50%なのか、その間なのか。ここが全損時の上限になる。
  3. 家財にも地震保険が付いているか。 建物と家財は別に契約する。限度額は家財1,000万円。
  4. 割引の欄に何か入っているか。 何も入っていないなら、4種類のうちどれかの対象になり得るか、確認書類は出せるかを聞く項目になる。
  5. 保険始期はいつか。 平成28年以前始期なら損害区分は3区分。基本料率の表も令和4年10月1日以降始期のものになる。

聞き方としては、「地震のとき、いくら出ますか」より、「全損と認定された場合、建物と家財それぞれ何円が上限になりますか。その額は火災保険金額の何%ですか」のほうが、制度の建て付けには沿っている。数字は証券に書いてあるので、答え合わせもできる。


出典(すべて 2026-08-23 に本文を取得して確認)

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